祝・アフタヌーン四季賞2012冬で大賞受賞 山田胡瓜さん(受賞作:『勉強ロック』)にインタビュー
先日、「月刊アフタヌーン」が主催するアフタヌーン四季賞の発表があったことは、みなさんご存知ですよね?
その大賞を受賞した漫画家が、なんと! ねとぽよから出ました!!
今回の大賞作、『勉強ロック』を描いた山田胡瓜さんには、実は「ねとぽよ2号」で『バースデー』という作品を描いてもらっていました。LINEをモチーフに据えた、切なさが胸に迫る作品でしたね。
そんな胡瓜さんに、今回ねとぽよは一足早くインタビューをしてきました! 普段は飄々とした風情でIT記者をこなしてる胡瓜さんですが、インタビューでは漫画への熱い思いを語っていただきました。必見ですよ!!
1.「男性から見たリアルな女性をうまく描けたらいいなと思ってますね」
胡瓜 ありがとうございます。
――受賞の話を聞いたときはどうでしたか?
胡瓜 月並みですけど、やっぱり信じられなかったですね。編集さんの口ぶりで、大賞はなさそうだなと思ってたので。年齢の問題もありますし。次の四季賞に出す作品を描かなきゃなと思っていたところでした(笑)。
――賞を獲る自信はなかったということですか?
胡瓜 今回賞を取った作品は、3年ぐらい前にネームが出来上がってたんですけど、恥ずかしいところもある未熟な作品で、本当はもっと描き直したかったんです。大賞を取ってしまったことで、大賞作品として見られちゃうのが心苦しいというか……。アフタヌーン大賞作品の冊子が挟まるのですが、その表紙に現在の実力はこめたつもりです。カラーはあんまり経験がないんですが、描いてて楽しかったです。
――受賞作は、『MILK』みたいに日常を淡々と描くような作品ですか?
胡瓜 そういう、なんでもない女子高生がなんでもない一日で泣いたり笑ったりしてるよねハッハッ、ていうのは好きなんですけど、今回は東大を目指す受験生の男の子が登場します。
――女の子はちゃんと出てきますよね(笑)?
胡瓜 もちろん出てきます。女の子大好きなんで。
――胡瓜さんの作品には身近な女の子が描かれているものが多い印象がありますが、主人公に女の子を選ぶのはこだわりなんですか?
胡瓜 単に女の子を描くのが好きなんです。よく僕の描く女の子は不機嫌そうって言われるけど、どこから切ってもかわいい女の子にはあんまり萌えないです。男性から見たリアルな女性をうまく描けたらいいなと思ってますね。
2.「僕、自分のことを「パンピー」だと思ってるんです」
――胡瓜さんは、今のIT記者の仕事に就かれて何年目ですか?
胡瓜 6年目ですね。元々ネットはあまりやってなかったんです。当時は、完全に情弱でしたね。今の会社も、たまたま大学の説明会で話を聞いて、申し込んだら受かったというだけです。
――社会人になってからは、あまり漫画を描かれていなかったと聞きました。
胡瓜 休みの日は描いてたんですが、やはり社会人となると忙しくて……。記者業の方も結構充実してますしね。あと、仕事は丁寧にやらなくちゃいけない、っていうのが社会人になると分かるんです(笑)。担当さんがついたのもあって、ペン入れとか絵が、学生時代のクオリティにはもう満足できなくなってしまって、土日に机に向かってもなかなか進みませんでした。で、気がつくとブラウザを立ち上げて……。
――結局、ネットのせいじゃないですか(笑)。そんな感じだと、就職して、もう漫画家はいいやと思った時期はありましたか?
胡瓜 それはないです。仕事で取材をしながらでも、どこかでずっと漫画のことを考えている自分がいましたよ。それは、子供の頃からずっとそうですね。
――子供の頃は、どんな漫画を読んでいたんですか?
胡瓜 小さい頃は「ボンボン」でした。「少年エース」も買ってましたね。後に『ケロロ軍曹』で有名になる吉崎観音さんとか島本和彦さんとかの作品を読んでました。あと、『多重人格探偵サイコ』も衝撃でした。主流に三歩ぐらい下がって付いていくタイプでしたね。
――エースって、世代的に創刊当時ですよね(笑)? 主流から下がってついていくというか、単にひねくれてますよね。周囲に読んでる人いないでしょう。
胡瓜 いませんでしたねー(笑)。ジャンプなんて当時は黄金期だったんですけど、実は全然通ってない。でも、ひねくれてみるわりに、あとで後悔するタイプなんですけどね(笑)。
あと、どちらかといえば単行本派でした。アフタヌーンの漫画だと、黒田硫黄さんとか読んでましたね。『茄子』と『大王』とかが好きです。最近だと、アフタヌーンで四季賞取った市川春子さんの『虫の歌』は面白かったです。他には、諸星大二郎さんやさそうあきらさんもすごい好きですね。もう絶版なんだけど、『僕が猫だったころ』は疲れたときに読んでます。さそうさんの、学生青春ものの短編には影響を受けました。
――子供の頃からマンガを描いていたと聞きましたが、大学は早稲田ですよね。美大に行こうと思ったことは?
胡瓜 物心ついたときから漫画は描いてましたし、自分が漫画家以外になることは想像してなかったから、美大は考えましたよ。ただ、漫画って、単に絵が上手ければいいわけじゃないとも思ったんです。みんなが共感できるものを描くためなら、普通の大学に行った経験も活かせると思ったのであえて選びませんでした。それで、普通に絵画のサークルに入って……まあ絵は描かなかったんですけど(笑)、漫画を読んだり、写真撮ったり、時々麻雀したりしてました。
――なんか胡瓜さん、飄々としたふりをしてメチャクチャ戦略的じゃないですか(笑)。
胡瓜 冷めてるんですよね。僕、自分のことを「パンピー」だと思ってるんです。もちろん、すごく個性的な作品を描く漫画家に憧れたこともあるんですけど、やっぱり自分は彼らとは違うなとしみじみ思う。でも、パンピー感覚があるおかげで、描きやすい世界もあるかなと思います。
――なるほど……。そんなパンピー生活をしてた胡瓜さんですけど、大学卒業後に一度、四季賞は受賞されてるんですよね。
胡瓜 そのときは、佳作ですね。実はその前に、スピリッツで賞を獲ったこともあって、編集者の方がついたこともあったんですけど、週刊誌のスピード感についていくのが大変で、結局うまく行かなかったです。それで別のところにも当たってみようと思って、コミックビームに持ち込んだこともありました。そしたら、応対した編集者の人に「君はこっちじゃない。他のところで、地に足の着いた作品を出せ」と説教されました(笑)。
――パンピーでやってけ、と(笑)。
3.「マンガって、台詞の良さがあると思うんですよ」
――胡瓜さんの経歴で、ネットメディアで記者をやってたことは、作品に影響を与えていきそうだなーと思います。
胡瓜 ネット記者をやっていた強みは活かしたいですね。ネットのある日常風景みたいなのは、やっぱり描きたいです。あと、媒体としても紙だけじゃなくて、ネットでも描いていきたいです。他にできる人がまだあまりいないと思いますし。
――ねとぽよでは、電子書籍でネットの物語を描かれましたよね。
胡瓜 『バースデー』は、そうでしたね。人が死んだあとのSNSを描いたんです。誰も何もしなかったら、生きてる人間としてSNS上にはずっと存在して、こいつの誕生日ですって通知がきて……こういうときの気持ちの機微をお話にしたらどうなるんだろう、と思ったんです。
(ねとぽよ2号 『バースデー』より)
――SNSと死の話は定期的に話題になりますね。
胡瓜 ただ、ネットをしてる日常をマンガにするのは、なかなか難しいですね。基本的に画面との対話なので、漫画で描くと「華」がないんですよ。漫画のコマに机にへばりついた人間とネットの画面がずっと映ってても、面白くないじゃないですか。
――『バースデー』では、打ち合わせのときに、いかにディスプレイの外で物語を展開するかが肝だという話をしましたね。
胡瓜 あと、ネットはサービスの寿命がすごく短いので、身近なものを具体的に描くと賞味期限が早くなる感じがありますね。今ならFacebookは分かるけど、5年後10年後どうなってるか分からない。
――でも、例えばmixiがメチャクチャ流行ってたときに、その時のユーザーの様子をしっかり小説に残せたとしたら、それはきっと今読んでも面白いし、歴史的意味もあると思うんです。
胡瓜 それは、そうかもしれないですね。
あと、電子書籍には紙とは違うウェブならではのやり方があると思っていて、それにも興味があります。例えば、ニコニコ漫画は動画紙芝居みたいになっていて、間のコントロールも自分でできるし、コメントを予測した話の作り方もあるし、作り方も文法も全然違うんです。他にもいろいろあると思うのですが、そういう風に画面で見るのに最適化された漫画も面白いと思います。
――FLASHアニメみたいですね。
胡瓜 確かにFLASHには似てます。でも、アニメだと、全てが絵と音の世界ですね。マンガって、台詞の良さがあると思うんですよ。文字として言葉が出てくる魅力がある。声優の声を当てては失われる魅力がある気がします。あと、ウェブってテキストが結構強い世界じゃないですか。アニメとは違う表現のウェブ漫画みたいなものに興味があります。
――アニメと違って、マンガはもっと指や目の動かし方も能動的ですしね。そこもウェブ的かなと思いますね。JavaScriptなんかを使って動的にコマが動いていくサイトがありますけど、あれのもっと本格的なのとか、胡瓜さんもねとぽよのエンジニアと一緒にやりませんか。
胡瓜 あ、いいですね。やりましょう、やりましょう。
――やったー(笑)! じゃあ、エンジニアに連絡しますね。今度企画会議しましょう。
胡瓜さんの受賞作は、来月の「月刊アフタヌーン」で読むことができるみたいです。冊子、楽しみですね。わいわい。