「うちの旦那は存在自体が嘘のようなの」奥さまに夫(家入一真)のウェブサービスを実際に料理してもらった #bunfree
<登場人物>
家入一真君(33歳)……問題児。遅刻、飲酒、アルバイトの常習犯。
モー君(10歳)……クラスのムードメーカー、別名キラーコンテンツ。
夢見ちゃん(6歳)……クラスのアイドル。日によってプリキュアになる。
■先生、あのね。
先生。
2組の中丸君の通学鞄から12万の領収証が落ちました。
個人的にアフターで行った、六本木の高級カラオケ代まで経費で落とす算段です。
早いもので、もうかれこれ10年以上となるでしょうか。当学級の感電少年ことモー君、くいしんぼうのみんなの妹夢見ちゃん、そしてえくぼは恋の落とし穴、玄界灘が生んだ六本木の有名人こと家入一真君という個性豊かなクラスメート達と、楽しい学級生活を過ごすべく日々尽力して参りました。ときに片手に雑巾を持ち大人のお漏らしを片付ける様子、またときにボクサーパンツのゴムを情熱のはちまきに代えてライバルと戦う様子など、学級委員長としての体当たり仕事を、かつてペパボ法人パブー学園の学級日誌にて綴っていたあの頃から、2年。先生、私のこと、覚えておいででしょうか。
改めまして、ご無沙汰しております。当学級の、今会える学級委員長こと家入明子です。
2年という時を経て、一度はそれなりに奇麗に完結したはずのこの学級日誌を、今再び、ここに綴るに至ったその背景には、ある一つの“出会い”がありました。
先生、今日はその一部始終についてご報告させて頂きたいと思います。
●謎の集団『ねとぽよ』からの質問状
それはおよそ2ヶ月ほど前のこと。
“ネットの平和を守る市民団体”『ねとぽよ』と名乗る、いかにも胡散臭い校外の謎の集団から、思いがけないゆるい質問状が届きました。
「おたくのクラスのもんだいじが〜、きゃんぷふぁいあ〜っていう〜、“かがいかつどう”はじめたって〜きいたぽよ〜。けっきょくのとこ〜それって〜どんなかんじぽよ〜?」
……私のクラスの問題児と言えばそう、今更隠すまでもない家入一真君のことでございます。最近では授業にもろくに姿を現さない問題児の彼が、このところ珍しく熱心に取り組んでいるらしい、“CAMPFIRE”たる課外活動。それが一体どんな感じなのかを知りたい、と。
なるほどなるほど、容易いことです。それでは説明させて頂きましょう。
CAMPFIRE(キャンプファイヤー)とは、アイデアを実現するために必要な創作費用を、そのアイデアに共感した家族・友人・知人そして多くの人々から少額からお金を募る事ができるクラウドファンディング型のプラットフォームです。
CAMPFIREとは? - CAMPFIRE(キャンプファイヤー)
謎の市民団体ねとぽよさん、ご理解頂けましたでしょうか。
「ん~いまひとつ〜、わっかんないぽよ〜」
うーん、そうですか。(まあそんなものかな……)
ではもう少し詳細に、二丁目の駄菓子屋を例に挙げてご説明しましょう。
現代社会においては日一日と薄れ行く駄菓子カルチャーに危機感を募らせていた二丁目の駄菓子屋のおばちゃん。今こそ駄菓子業界に新しい価値を取り入れようと一念発起。きなこ棒、あんず餅、黒電話。ノスタルジーだけで勝負する駄菓子屋なんてもう古い!駄菓子、イコール、スウィーツ!スウィーツ、イコール、カワイイ!原宿カルチャーを連想させるカワイイポップな内装に店舗を改装したい、海外展開も視野にいれたフランチャイズ展開に着手したい、流行のきゃりーぱみゅぱみゅを呼んでイベントしたい、そんな野望を全て実現するための資金が欲しいと、CAMPFIREを通して寄付を募りました。すると、おばちゃんのアイデアに賛同した人たちが少額ずつお金を出し合い、おばちゃんはその軍資金をもとに見事、駄菓子カルチャーに新たな旋風を巻き起こした、というわけです。
「ふ〜ん」
えっ、ねとぽよさん、これでもまだ煮え切らない。
「あんまり〜わかんないぽよ〜」
(思った以上に理解力に乏しいな……)
「もしかしていいんちょ〜。せつめい、へたなんじゃないの〜ぽよぽよ〜」
……!?!……
……わかりました。それでは、とりあえず当学級にいらして下さい。
今、会いましょう。
会って、お話しましょう!
と、この様な経緯で、ゆるふわを装いながらときに挑戦的な一面をちらりと覗かせる得体の知れない謎の集団「ねとぽよ」との初めてのやり取りを終えました。ネットを平和を守る、と言いながら妙に喧嘩腰。喧嘩を売られたのなら買ってやろうじゃないの、と待っていたところ、二人の使者、キューリと小魔女が、当学級へやってきたのであります。
●夢見ちゃんとモー君、陥落
「どうもはじめまして〜ねとぽよのキューリです〜」
「あはは〜おなじく小魔女ですぅ〜〜」
当たり障りのない、至って穏やかな挨拶で口火を切る使者達。しかし、場数を踏んできた私にはすぐにわかりました。……この二人、出来る!
人当たりの良い笑顔の向こうに秘められた、隠そうとしても隠しきれないそこはかとない狂気……。特に、このタイプの狂気に私は見覚えがありました。これ、なぜか当学級の周辺にやたらと多い、“面白ければどんなことでもやる”狂気です。間違いない。単に狂気を持っているだけの狂人ならまだ手に負えますが、この二人に至ってはそれを器用にオブラートに包み、通常はコンクリートジャングルたる日本社会に適応している風を装っている、器用さと狂気を兼ね備えた一番手強いタイプです。そんな二人が揃いも揃って当学級にやってくるとは……。恐らく何かとんでもないことを企んでいるに違いない、今からとんでもないことを言い出すに違いない、と、私は瞬時に身構えました。学級委員長たるもの、いつ何時も、学級の平和を守らなくてはなりません。
「ど、どうも初めまして。学級委員長の家入明子です。……では早速ですが家入君の課外活動についてより詳しくご説明させて頂きますと……」
小魔女「あーーーーそうそう、それなんですけどね〜。ちょっと、あんまりよくわかんなかったんで、委員長、すいませんけど、料理作ってくださ〜い」
「……は?」
小魔女「料理ですよ〜料理。CAMPFIREを委員長さんに料理化してほしいな〜って。一応、企画書的なやつも持って来てるんですけど〜……ああそうだ、すっかり忘れてた、夢見ちゃ〜ん、これお土産のぬいぐるみだよぉ〜」
夢見「わぁい!ありがとうっ。いいんちょー、ほらみて〜。小魔女さんにネコのぬいぐるみもらったよぉ、わぁい、わぁい!」
「え、あ、ちょっ、夢見ちゃん……、わ、わざわざどうもすみません……」
小魔女「いえいえ〜。喜んでくれて嬉しいなあ〜」
夢見「いいんちょー、そんなことより、夢見にちょっとそのきかくしょってやつ、よませてー。……ふ〜ん。“ねとぽよ2号企画 学級委員長に問題児の課外活動を料理してもらっちゃいました”……ね。なるほど。これ、なかなか面白い企画ね。夢見でもちょっと他では聞いたことないし、これ、結構当たるんじゃない?いいわ、委員長、やりなさい、やるべきよ。……ねーっ、ねとぽよさんっ♪」
小魔女「だよね〜夢見ちゃん〜、わかってるね〜あはは〜」
「……ちょ、夢見っ」
2年前、パブー学園で学級日誌を綴っていた当時プリキュアに憧れていたみんなの妹、夢見ちゃんは6歳になりました。自称、“好きな言葉は「ハート」と「ながれぼし」”の昔と変わらぬメルヘン少女ですが、その実、たった2年で驚異的な成長を遂げ、今や常用漢字ならば大人と大差ないレベルで読みこなせますので、気を抜くとこの様にメルへン少女らしからぬ論理的思考があらわになってしまいます。
モー君「……えー、やめとけば?」
そこへ現れたのは10歳になった当学級のキラーコンテンツこと、感電少年モー君です。
モー君「委員長、最近忙しいじゃん。そんなことやってる暇なくね?」
間もなくやってくるであろう思春期を前に、言動の節々にややぶっきらぼうなところが見え隠れする様になりました。
「そ、そうですよね!モー君の言う通り、私は最近なかなか忙しくしておりますので……」
キューリ「あ〜ところでモー君、こんな都市伝説知ってる〜?ゲーム『ボクのなつやすみ』の中で〜、実際はあり得ないはずの(略)……」
「……!!!!……俺、キューリさんってすっげーいい人だと思う。ねとぽよって多分、なんかすげえ。委員長、料理作りなよ。……委員長なら出来るよ」
「ええええええっ」
小魔女「あはは〜。委員長、クラスの皆さんもこう仰ってますし〜。CAMPFIREをぜひ、お料理してくださ〜い」
「いや……そう言われましても……」
小魔女&キューリ「あなた、学級委員長でしょう?」
……!!!
そのとき私はようやく理解しました。今目の前にあるこの状況、提案という呈をなしてはいるが、その実、挑戦を叩き付けられているのに他ならないということ。
学級委員長家入明子、これまでどんな敵にもひるむことなく果敢に戦って、そして勝って参りました。……だからこそ今回も、敵を目の前にしてすごすごと逃げ出す訳には参りませんでした。ゆるふわを装いつつもその影に、チラリチラリと強者の面影を覗かせる、「ねとぽよ」という名の謎の強敵。この挑戦を受けねば、私は負けを認めることになってしまう……!
「わかりました。その挑戦、受けて立ちましょう。」
こうして私は久々に、熱い闘志を燃え上がらせた次第なのであります。
●そして、問題児の家入君
※夢見ちゃんが描いた2スタイルの家入君。あと3人でスマップが出来る程スタイリッシュに仕上がりました。
とは言え、制作に着手してから完成に至るまでの道のりは、決して平坦なものではありませんでした。と申しますのも、私が2年間この学級日誌を書かずにいる間に、問題の家入君にはいつの間にやら内田裕◯氏の生霊が宿っており、“シェケナベイベーッ”、“ロックンロールッ”、ならぬ“ソーシャルネットワークッ”、“クラウドファンディングッ”などと耳慣れぬ決め言葉を多様しながら課外活動に夢中になるあまり度々音信不通となり、ついには失踪するという失踪癖なんかもついてしまっていたのです。(思い起こせばそんな彼に久々に会ったあるとき、これ面白いよ、と学級文庫より委員長権限で特別にプレゼントした本は、吾妻ひでお『逃亡日記』でした。病的に逃亡癖のある漫画家、吾妻ひでお氏が、過去数回に渡り仕事や家族を放り出し、着の身着のままノープランで逃亡。果てはホームレスとして生活していた頃の、貴重な体験を綴ったノンフィクションです。あれは今思い返してもワン&オンリーな最良のセレクトでした。)
いつの間にやら髪の毛を金髪に染めていた家入君に、
「委員長を見ていると、なんだか樹木希林を思い出すよ……」
と恥ずかしそうに打ち明けられたあの日のこと、私、一日たりとも忘れたことはありません。アナタ思いのほか自覚的にやってたのねと、新鮮な驚きを覚えたあの日のことを。
学級委員長として彼の行き過ぎた非行を案じ、親御さんに相談を持ちかけたこともありました。すると、家入君のお母様から頂いた有難いお返事は、
「わかりました。私の知り合いに呪いをかけられる人がいるので、頼んでみます。」
予想だにしていなかった斬新なソリューション。
頼みの綱の保護者の方ですら、最早非科学的な力にすがらざるを得ない制御不能の非行少年、家入君。そんな彼が、目下熱心に取り組んでいる課外活動“CAMPFIRE”を、私の手で料理化するというとんでもない課題。学級委員長にしか着手できないであろうこの無謀とも言える課題に、この度私、全力で挑ませて頂きました。
その全貌は、謎の集団「ねとぽよ」さんによって、間もなく全て公表される様ですので、どうぞご期待下さい。
さて、最後となりましたが、本日も先生方におかれましては、雑文に長々とお付き合い下さいましたこと心から感謝し申し上げております。
またいつかどこかでお会い出来ることを願いつつ、本日の学級日誌とさせて頂きます。
どうも有難うございました。
学級委員長、家入明子。
■ネットのみなさん、あのね。
こんにちは、ねとぽよライターの小魔女です。
上記『学級委員長、家入明子。』(特別篇)は事実に基づいた小説でして。このたび、ねとぽよは家入明子さんに指令を出させていただきました。旦那さんである家入一真さんがつくったウェブサービス「CAMPFIRE」をイメージして料理してください、と。いやぁ、ウェブサービスって一度食べてみたかったんですよねぇ。
調理をしている最中に家入夫妻のことも取材しました。「うちの旦那は存在自体が嘘のようなの……」となにやらコワーイ発言が飛び出したり、取材後には「もう私と夫の10年間は語り尽くしました」と奥さまに言わせしめたこの企画。5月6日の文学フリマで発売する『ねとぽよ vol.2』の<料理特集>に掲載されますので、どうぞお楽しみに。ウェブでも6日以降に発売しますので、もし文学フリマに来られない方はウェブ販売をお楽しみに。
さてさて、今回の小説は明子さんが特別にねとぽよのために執筆されたもので、2年前に公開された全10章からなる通常版の『学級委員長、家入明子。』はパブーで無料で読むことができます。『ねとぽよ vol.2』を読む前にこの本で家入一家のことを予習しておくと、さらに深く記事が楽しめますよ。こちらもどうぞよろしくお願いします。
明子さん、特別に執筆してくださりありがとうございました!
ネットのみなさん、そんじゃーね!
ねとぽよライター、小魔女。
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